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20才と31才の恋話 ブログトップ
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9番目の夢.22 [20才と31才の恋話]

「わかった、夏代。安心しろ。もしも万が一そんな仕事が入ったら、俺がきっちりと断ってやるから」
「でもセンパイ。仕事を断ったりしちゃって大丈夫なの。私のせいでセンパイがくびになったりしたら、申し訳ないわ」

「任せなさいって。その辺は、わりと融通がきくんだ。これまでだって原発の仕事を断ったことは何度かあるし」
「へえ。あの会社って、原発の仕事が入ったりもするんだ。原発の仕事なんて、もっとちゃんとした会社がやっているものとばかり思ってたけど」

「あいかわらず夏代はあの会社のことを、よほど見くびってくれているらしいな」
「そうじゃなくて、何て言うのかな。原発って、いろいろ問題もあったりするわけでしょう。だからもっと専門的な会社が、素人には立ち入れないようなところで、極秘に仕事をしているんじゃないかと思ってたの。あんな、私なんかが急に行って雇ってもらえるような会社で、仮にも原子力発電所に関る仕事をしているだなんて、思ってもいなかったのよ」

「あの会社にいるとよくわかることだけど、原発なんて結構いい加減なものだからな。いかにも科学的にきっちり管理されていて、絶対に大丈夫ですなんて言っているけどさ。それはあくまでも理想というか、理論上のことでしかないわけだろう。実際に造ったり動かしたりしているのは生身の人間なんだから、手抜きとか思わぬ間違いとかはいくらでもあるみたいだぜ。お偉いさんたちは理論だけで絶対に安全だとか言いきるけど、実際の現場を知っていると、ちゃんちゃらおかしいやね。本当のことも知らずに、なに言ってやがんだろって感じでさ」

「そういうのを見て、先輩はどう思われるんです」しばらく黙って聞いていた敏男が口をはさんだ。「そういうことを目の当たりに見ておきながら、黙って見すごしちゃうんですか」
「俺なんかが今さら、じたばたしたって何もはじまらんよ」やや投げやりな口ぶりで昇は言う。「俺なんかが何をしてみたって、しょせんは何も変わりやしないだろう。原発の仕事だって、俺がやらなくても結局は他の誰かがやることになるだけだしな。原発の仕事はやりませんって、かっこよく断ってみせても、ただの自己満足にすぎないのかもしれん」

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9番目の夢.21 [20才と31才の恋話]

「そんなことはどうでもいいんだけど」ため息をつくようにして、ひとつ間をおいてから夏代は言葉を続ける。「北海道も、もうおしまいね。今はまだいいけど、きっとあと何年かで駄目になってしまうような気がするわ」
 つぐみが訊ねた。「駄目になるって、どういう意味」

「このところ私、少なくとも一年に一回くらいの割合いで北海道へ行っていたじゃない。でもね。行くたびに必ずと言っていいほど、どこかが変わっちゃってるのよ。それまで唯どこまでも湿原が続いていた所に広い道路が出来ちゃってたり、林が切りひらかれて宅地造成されてたり」

「夏代の田舎って道東の方だろ」敏男が口をはさむ。「道南はまあしかたがないとして、道東にまでもう開発という名の破壊が進んできているってことなのかな」
「道南はしかたがないって、いったいどういうことよ」
 つぐみはあいかわらず敏男に手きびしい。
「だって、そうじゃないか。函館に室蘭に札幌だろ。何てったって百万ドルの夜景だぜ。そんでもってすすきのだぜ。道南が北海道だなんて、俺はとうてい認める気になれそうもないね」

「まあ、道南が北海道かどうかはさておいてだな」こういう時に場をまとめようとするのは、いつでもたいてい昇の役割だ。
 しかし今回はつぐみがすかさず、敏男にあてつけたあいの手を入れた。「札幌が道南かどうかもさておいて、ね」

 つぐみのうまい茶々のいれ方に昇は思わず感心してしまう。だが表向きは決して何も聞こえなかったかのように言葉を続けた。「せめて北海道だけは、決して手つかずのまま残しておいてほしかったな。僕らみたいに、まがりなりにも生物と関っている者にとって北海道は、いわば残された最後の聖域のようなものだからさ」

「もう、とても聖域なんかじゃなくなってしまいそうよ」北海道に対する思いいれが深いだけに、他の者よりも哀しそうな声で夏代は言う。「今回も、ちょうど山を削って崩しているところを見ちゃったし。私がまだ子供で北海道に住んでいた頃とは、すっかり何もかもが変わってしまったわ」

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9番目の夢.20 [20才と31才の恋話]

「何だか楽しそうですね、そういうのって」
「ああ、けっこう楽しいぜ。もちろん仕事をして金を稼ぐわけだから、決して面白いことばかりとは言えないけどな。でも夏代となら俺も気心が知れているし、お互い仕事をしやすいことは確かだろう」

「私もまぜてほしいな。大学が休みの間だけでも、昇先輩のところでアルバイトさせてもらおうかしら」
「やめておいた方がいいわよ。センパイにこき使われるから」

「こいつ、言ってくれるじゃないか。でも、つぐみが来てくれたら嬉しいな。きっと楽しいぜ。毎日が合宿かなんかみたいでさ。そうだ、敏男も来いよ。そう言えばアルバイト探してるって、さっき言っていたよな」
「敏男先輩が来たら、職場では私の方が先輩ってわけね。たっぷりこき使っちゃおうっと。お茶くみなんかも、させちゃうんだから」

「お誘いは、ありがたく思います。先のことはわからないし、もしも本当に困った時には先輩にお願いすることになるかもしれませんが」やや改まった口ぶりで敏男は言った。「でも今のところ先輩のお世話にはならずに、自分で何とかしようと思うんです」
 敏男にも男としての自負があり意地だってあるだろう。そして昇としても、それは大切にしてやりたい。

「そうか。じゃあまた、その気になったらその時は遠慮なく言っておくれ。俺はいつでも待っているからさ。敏男が来てくれたら楽しいだろうし。口に出しては言わないけど、夏代には俺、とっても感謝してるんだ。夏代が来てくれたおかげでここんとこ毎日、本当に楽しくてしかたがないからな」

 今夜は夏代たちが籍をおいていた高校の生物部を卒業した者たちの集いだ。十何人もの懐かしい顔ぶれが集まっているというにもかかわらず。つぐみに夏代、それから昇や敏男あたりはどうしても自分たちだけでかたまって話をしてしまうことになる。せっかく皆で集まっているのだから、いつも会うことができない者とこそ話をするべきなのではなかろうか。こんなところまできてなお、毎日のように顔を会わせている夏代とばかり話をしなければならないいわれはどこにもないだろう。そんなふうに思いながらも、昇はついつい夏代の近くの席に座ってしまわずにいられない。そして今日みたいに皆で集まったような時、つぐみと敏男もやはり昇や夏代のそばに座をしめることが多いのだ。

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9番目の夢.19 [20才と31才の恋話]

「でも、じゃあ夏代。今日のこの集まりのことは、どうやって知ったわけ。どこから夏代に連絡がいったの」
「俺だよ」それまで夏代たちの話を黙って聞いていた昇が口をはさむ。「俺が夏代に知らせたんだ」
 その昇の言葉を聞いて、敏男の顔つきがわずかに曇った。無理もなかろう。自らも知らずにいた今の夏代の連絡先を昇だけは知っていたと聞いて、敏男がいい気分でいられるわけはない。

「先輩は夏代の休学のこととか、引っ越しのこととかを御存知だったんですか」
 高校を卒業して二年がたつ今なお、つぐみは昇に対してとても丁寧な言葉つかいをする。昇のことを、ほとんど仲のいい友だちくらいにしか考えていないらしい夏代とはかなりの違いだ。

「実は私いま、昇センパイの勤めている会社でアルバイトしているのよ」
「へえ、本当に」
「そう。つまり夏代は俺の部下で、俺は夏代の上司だってわけさ」
「よかった。それを聞いて少し安心したわ。昇先輩がついていて下されば大丈夫よね」

「アルバイトって、どんな仕事をしているんだい」
「いろいろよ。文章を打ち込んだり、図面を描いたり。あるいはコンピューターにいろいろな数値を打ち込んだりね。もちろんお茶くみなんかもあるけど」
「女だからお茶くみをやらせるという考え方はあんまり好きになれないんだが、まあ今のところ夏代は職場の中で最も新米だからな。とりあえずお茶くみをやってもらったりもしているんだ」

「じゃあ、簡単に言えば事務職ってわけか」敏男が訊ねた。
「俺つきの部下として俺の仕事を手伝ってもらっているわけだから、まあ俺の秘書みたいなもんだと言えるかもしれないね」

「あ、そうそう。聞いて聞いて。ついこの間から、昇センパイに教わってCADなんかもはじめちゃったのよ」
「そいつは、ちょっと違うというものだ。俺はCADのことなんか何も教えてないし、教えようにも、教えることができるほどの知識をもっているわけではないからな。CADは夏代がひとりで覚えたようなものだよ。と言うか、より正しく言うならば、夏代と俺とが一緒に勉強して覚えたわけだけど」

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