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9番目の夢.2 [20才と31才の恋話]

「またまた御冗談を」昇のたわむれ口を軽く受けながして夏代は言葉を続ける。「実はねえ、センパイ。私、親から勘当されてしまったのよ」
「えっ。勘当って、あの、親子の縁を切るという勘当かい。へええ。そりゃすごい。勘当だなんて、映画や小説のなかだけの話かと思っていたけどな。自分の子供を勘当する親なんて、今時まだ本当にいたんだねえ」

 夏代は昔から突拍子もないことをしでかしては昇のことをふりまわすのが常だった。だから昇も、もはや勘当くらいで簡単に驚いたりはしない。
「それで親の家を出なければならなくなっちゃって。ここしばらくの間は友だちの家を泊まり歩いていたの。でもいつまでもそんなことばかり、しているわけにはいかないでしょう。というわけで部屋を探すには探したんだけど。明日までに手付金を払ってくれって言うのよね。ところがどうしても四万ほど足りないのよ」

「部屋なんて、俺に言ってくれれば何とかしたのに」
「ありがとう。でも、もう決めちゃったから」
「そうか。じゃあ、まあとにかく明日のあさ会おう。待ってるからな」
「ええ。本当に急なお願いでごめんなさいね。それじゃあ、お休みなさい」

 受話器をおいてから暗い部屋のなかで昇は、ひとり考える。夏代と会うのも結構ひさしぶりだ。明日のあさ顔を会わせた時、そのまま会社など行かずにゆっくり夏代と話をすることができるならいいのだが。

 あくる朝。八時になっても夏代は姿をあらわさない。しかたがないから、もう出かけよう。どうせ、あの寝起きが悪い夏代のことだ。泊まり込んでいる友だちの部屋で夜ふかしをして、今頃は寝坊をしているに違いない。目をさましてから連絡をしてくるにしても、きっと部屋ではなく会社の方に電話をかけてよこすはずだろう。そう考えて昇が、まさに部屋を出ようとした時だった。けたたましく電話が鳴ったのは。

「センパイ、ごめんなさい。私、道に迷っちゃったみたい」
「道に迷ったって、夏代さあ。これまで、いったい何回うちに来たことがあったと思ってるんだ。今さら道に迷ったりなんか、するなよな」
「そう言わないでよ。ほら、今日は友だちのうちから来ているでしょう。いつもと道が違うから、わかんなくなっちゃったの。センパイんちの、わりと近くまで来ているはずだとは思うんだけど」

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