So-net無料ブログ作成

9番目の夢.6 [20才と31才の恋話]

 昇と夏代とのそもそもの出会いについて、ここで語っておくことにしよう。

 昇にとって夏代は、高校での後輩にあたる。だがもちろん、昇と夏代とが同じ時期に同じ高校へ通っていたというわけではない。そんなことは、とうていあり得ない話だ。彼らふたりは十ほども齢がはなれているのだから。
 ならばなぜ、それほどまでに齢のはなれた彼らふたりが知り合い同士だったのか。

 高校にいたころ昇は生物部に籍をおいていた。暗い研究室の片隅でカエルやヘビの解剖を行うようなクラブではない。明るい野や山へ出て、自然のままの植物や鳥やけものの姿を眺める、そんなクラブだ。昇は山が好きで、今でも暇があるとひとりであちこちの山へと登っている。そのため野山の生き物とも、いまだに関りが深い。

 昇が通っていた高校の生物部は、年に一回のわりあいで合宿をおこなっている。あるいはその他にも部員が集まって、近くの野や山へと出かけることがある。そしてそんな時。部員たちはかって生物部に籍をおいていた卒業生たちにも誘いの声をかけるのがならわしだった。

 昇はたびたび、そんな高校生たちと一緒になって野や山へ出かけたことがある。野や山の生き物に詳しく色々なことを教えてくれる昇は、高校生たちにとっても重宝な先輩だったのだろう。昇が高校を卒業してからもう何年もたつというのに、あいかわらず昇のもとには高校生たちからの誘いの声が絶えない。

 そして夏代もまた、昇が通っていたのと同じ高校で、やはり昇が入っていたのと同じ生物部に部員のひとりとして名をつらねていた。
 夏代がまだ高校の一年生だった夏に行われた生物部の合宿。伊香保で行われたその年の合宿に、昇もまた卒業生として参加している。昇と夏代とは、そこではじめて出会ったのだ。

 はじめて夏代のことを知った時、昇にはすでに何か心にそれと感じるものがあった。この年頃の元気な女の子にはよくありがちなことだが、いかにも男まさりで少しも女らしくしていない。同い年の男を相手にまわしては喧嘩をふっかけてばかりいる。それにだいたいが、まだ年端もいかない十五歳の少女ではないか。それにもかかわらず、なぜか昇にはそんな夏代のことが気にかかってならなかったのだ。どこか不思議と女っぽい色気のある子だなあと思われて。その色気が、いったいどこから生まれてくるものなのか。それは昇にも、わからなかった。とりたてて男にこびているというわけではない。むしろ男のことなど全く気にもとめてすらいないようだ。だが彼女の口ぶりやしぐさには、どこか男の気をひいてやまない何かがある。

 かくして伊香保での合宿から帰ってきた時。昇の頭のなかには、そんな夏代の姿がはっきりと焼きつけられてしまっていたのだ。

 夏代の何気ないしぐさのあれこれが、昇にはとても懐かしく思い出された。合宿の間に夏代が言った言葉のひとつひとつを、昇は今でもはっきりと思い出すことができた。夏代のことを考えていると、何だかとても懐かしく心あたたまる気持ちになれる。自らがまだ幼くて、世の中のしがらみやら何やらに汚されてしまっていない、純粋だった頃の素直な心を取り戻すことが出来るような気がする。それはあたかも午さがりの陽だまりのなかで心地よいまどろみをむさぼっている時のような気持ちだ。

 そのことに気がついて昇は悩んだ。とまどいもし混乱もした。相手はたかが十五歳の少女で、しかも自らの後輩にあたる高校生だというのに。それにもかかわらずこの胸が熱くなるような想いは、いったい何だというのだろう。もしかすると、好きになってはいけないはずの相手に本気で惚れこんでしまったのだろうか。

 だが昇は二十代ももはや後半にさしかかろうとしている男だ。齢相応の分別もわきまえているものと、少なくとも自分ではそう思っている。決して世の中の掟も何もかもを投げ出して、ひとりの女を愛することだけ考えていていいような齢ではない。ましてや相手が十五歳の高校生で、自らにとっては後輩にもあたるとあってはなおさらだ。まがりなりにもひとりの卒業生として、高校生たちのために何らかの形で尽くしてあげるのが自らに与えられた役割だったはずでなかったのか。そんな自らが後輩たちのうちの誰かひとりをとりわけひいきにしたり、ましてや惚れこんでしまったりしていいわけはない。

 だから昇は、ひとり心のなかで決意した。夏代のことは、もうこれ以上なるべく考えないことにしようと。昇が本気で愛を抱くには、夏代はまだまだ若すぎる。今は彼女にとって自らが、いい先輩でいてあげることさえできればそれでいい。いい先輩として彼女のこれからの歩みを見守ってあげることさえできればそれでいい。そんな役割を、昇は自らに課すことにしたのだ。

[読者へのお願い]
「人気blogランキング」に参加しています。
 上の文章を読んで「参考になった」とか「面白かった」などと評価してくださる方は、下の行をクリックしてくださると幸いです。
「人気blogランキング」に「幸せになれる恋愛ノウハウ塾」への一票を投じる

nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:恋愛・結婚

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

メッセージを送る