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9番目の夢.4 [20才と31才の恋話]

「大丈夫かしら、いきなり面接を受けたりして。全くそんなつもりじゃなかったから何も心の準備が出来ていないし、だいいち私お化粧だってしてないというのに」
「大丈夫、大丈夫。夏代はまだ若いんだからさ。素顔のまま、そのままで充分きれいだよ。それに社長とは、わりに仲がいいんだ。僕のことを目にかけてくださっていてね。僕がこれまでに口を聞いた他のアルバイトに関しても、気に入ってもらっていたみたいだしな。僕の紹介なら文句なしに採用してもらえるだろう」
「そこまで言われて採用してもらえなかったら、私はまるで立場がないわよね」
「ものごとをそう悲観的に考えるなって。今コーヒーをいれてきてやるからさ」
「あ、すみません」

 夏代のためにコーヒーを沸しながら、昇は考えた。それにしても夏代の奴、全くおちこんだようすがない。親から勘当されたというから、少しはしょげているかと気づかっていたというのに。むしろ今みづからがおかれている状況を楽しんでいるかのようにすら見える。本当にしょうのない奴だ。なるほど、夏代の親もそんな彼女のありさまに、いいかげん愛想をつかして勘当などという大げさな仕打ちにおよんだものなのだろう。その気持ちは昇にも少しだけわかるような気がしないこともない。もちろん僕が夏代の親だったなら、そんな彼女のことを決して勘当したりなどせず、むしろ激しく抱きしめてやるのだが。

「夏代、履歴書はもう書けたのかい。ようし。じゃあそれを持って、三階について来ておくれ。社長に会ってもらうから。社長に夏代を引きあわせたら僕は自分の席に戻って仕事をしているからさ。面接がおわったら、また二階にきてくれな」

 夏代が昇の席に戻って来たのは、社長による面接がはじまってからまだ十分たったかたたないかという頃だった。
「あれ。どうした。面接してもらえなかったのか」
「いいえ。もう終わったのよ」
「へえ。早いな。で、どうだった」
「ええ。さっそく明日から来てくれって。とてもあっさり決まったもんで、何だか気がぬけちゃった」

「そうか。でも、まあ決まってよかった。ところで仕事は何をしてもらうことになるか、聞いたかい」
「とりあえず二階でセンパイの仕事のお手伝いをしてくれって言われたわ」
「何だ、それじゃあ夏代は俺の部下だっていうことじゃないか。そりゃあいいや。全く知らない人の仕事をするよりも、気心がしれているだけ夏代も気が楽だろう」
「センパイのお手伝いなら慣れてるしね」
「ああ。そういえば昔、よく原稿の清書やなんかの仕事を頼んだことがあったっけ」

「センパイ、私とりあえず今日のところはこれで帰るわ。早く手付金を払っちゃわなければいけないし」
「おい、夏代、帰るってどっちから帰るんだ」
「ここからだと駅はどこが近いの」
「夏代、ちょっと待ってろ。そこまで送っていくからさ」

 昇は上着をひっかけて夏代と一緒に外へ出る。朝とちがって高くなった陽ざしの光が暖かい。
「この道をまっすぐ、そうだな、五分くらい行くと駅につくから」
「センパイ、この辺で食べ物のおいしいお店っていうとどこかしら」
「何だ、もう明日からの昼飯の心配をしているのか。確かにうちの会社は社員食堂がないからな。でも大丈夫。食べることに関する限り、ここらあたりは恵まれているんだ。安くてうまい店とか量の多い店とか、色々あるからさ。まあ、そういうのはおいおい少しづつ覚えてもらうことにしよう」

「じゃあセンパイ、今日は本当にどうもありがとう」
「おう。明日からは、ばりばり働いてもらうぜ。じゃあとりあえず明日またよろしく」
 昇に軽く一礼をして、昼前の陽ざしのなかを夏代は去って行く。昇はしばしその後ろ姿と、夏代が歩くたびに揺れ動く長い髪とを見おくっていた。

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