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9番目の夢.3 [20才と31才の恋話]

 昇が交差点につくと、物陰からふらりと夏代が姿をあらわした。すらりと伸びた背。腰にまで届くかと思われる長い髪。いつもうるんでいるように見える大きな瞳。そして透きとおりそうな白い肌。あいかわらず美しい。いや。しばらく会わずにいた間に、前より輪をかけてきれいになったと言えるだろう。すれ違う男のほとんどが振りかえるだろうほどの、いい女だ。彼女のことは見なれているはずの昇でさえ、思わず何もかもを忘れたまま夏代の顔に見とれてしまいそうになる。

「おはようございます。早かったのね」
「ああ。まあ歩きながら話そうか。あっ、先に渡すべきものを渡しておいた方がいいかな。これを忘れると、いったい何をしに来たのかわからなくなっちまうし」
「すみません。なるべく早く返しますから」

「いいってことよ。今のところ幸い、とりあえず金には困っていないからさ。それより夏代。夏代こそ、これからどうするんだ。親から勘当されたということは、部屋代どころか生活費も自分で稼がなくっちゃいけないってことだろう」
「そうなのよ。だから大学は休学しようと思ってるの。学費なんか、とうてい払いきれないし。それに学校へ通っていたらアルバイトも、ろくにできやしないから」

「アルバイトは、もう決まっているのかい」
「まだよ。今日も手付金を払いこんだ後、夕方に塾の講師の面接を受けるつもりなの」
「アルバイトは、どういうのをやるつもりをしているんだ。何か、これといった希望があるのかな」
「とりたてて何もないけれど。とにかく、しばらくの間は朝から夜まで働かなくっちゃ。でないと借りたお金も返すことが出来ないしね」

「じゃあ夏代さ。これから、うちの職場に来てみないか。うまくするとアルバイトで雇ってもらえるかもしれないぜ」
「それって、いいかもしれないわね。でもセンパイの働いてる職場って、コンピューターの会社なんでしょう。私なんかに勤まるかしら」
「コンピューターの会社ってわけじゃないよ。コンピューターを使って仕事をしているというだけで。それに夏代なら頭はいいからな。仕事なんか、すぐに覚えることが出来るに違いない」

「アルバイトは募集しているの?」
「うん。来てくれれば何なりと仕事はあるはずだ。とにかく来るだけでも来てみないか」
「ええ。じゃあ、お願いします」
「お願いしますも何も、もうついちまった。ほら。ここがうちの職場さ」
「へえ。こんなビルなんだ。私はまたマンションの一室を借りてやってますっていうような、よくあるそんな小さな会社かと思ってたわ」
「あいかわらず歯に衣きせない奴だなあ。まあ、そう見くびるもんじゃないぜ」

「もしかしてこのビルが全部、センパイの勤めている会社なの?」
「そうだよ。俺が働いているのは二階だけどね。あっ、そうだ。夏代、ちょっとここで待っていてくれな」
 夏代をひとり後に残して昇は近くのコンヴィニエンス・ストアへと走った。履歴書の用紙を買い求めるためだ。

「ちょっとここに座って、とりあえず履歴書を書いておいてくれないか。社長がまだ出社して来ていないんだ。社長が出てきたらわけを話して、面接をしてもらうから」
 昇は夏代を自らの席まで連れていって座らせる。殺風景な男所帯の職場に夏代の美しさは、やや場ちがいだ。しかし夏代がそこにいるだけで、華やかなにぎわいがかもしだされるから凄い。いつもと同じはずの職場が、何だかまるで違った場所みたいに見えるではないか。

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