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あかずの踏切り.41 [皆の恋話]

電話をきってからボクは数えてみた。荻窪から西荻窪へうつったのも一回として数えると、確かに引っ越しはこれで四回目だ。本当にいったい、いつまでこんなことが続くのだろう。これではまるで流浪の民じゃないか。根なし草のような暮しに心のやすまる暇はない。石神井にいた頃ボクの日々は、いつでも明るい光に満ちていた。こがね色のこもれ陽のなかで、まどろむように昼さがりを過ごしていたものだ。それが今では、どうだろう。ボクはたそがれの街のなかをあてもなくさまよう旅人になりはててしまっている。ボクはボクの帰るべきふるさとを見うしなってしまった。ボクはボクの地図を見うしなってしまった。街々はその座標軸をうしない、北も南ももはやない。そんな八幡の藪知らずのなかでボクはただ、いつまでも歩きつづけるしかないのだろう。しかしその時、疲れきった心にわきおこってくる懐かしい何かを裏がえされた愛と呼んではならないだろうか。どんな街にだって、そのひとつひとつの道の片隅に想い出がひっそりと息づいている。見しらぬ景色に Deja vuを感じることだって、あるかもしれない。地図は今こそ燃えつきた。後に残されているのは、ただ生きていくことだけだ。


      あかずの踏切り

はげしい雨のふる深夜の街に
よしんば地図は燃えつきてしまったのだとしても
ボクにとっての“街”とは  あいもかわらず抽象的な記号
〈直線〉のみでえがかれた無味乾燥な図形
そして……おわりのない数式

およそ無機質な物質の集合体
はいりこむことを許さない否定的な風景
にんげんのいとなみを拒んでしまう何か
ひとびとの黒い意志の亡霊が徘徊し
耳には聞こえない悲痛な叫び声が充満する

かずかぎりない階段のわらい声が不気味にひびき
ネオン・サインがもやにけむれば
時計はおそるおそる  たしかめるように時をきざんで
雨だれの音が  そのリズムを狂わせようと企みはじめる

そしてそのなかでひとびとは
そびえるビルの林のなかの  しろく輝く朝のひかりと
一杯のコーヒーにだけしあわせをもとめ
飼いならされた家畜のように
日々のくらしにうもれて自分をみうしなう

夜の街に  TAXIのテール・ライトと靴の音
ほんのちっぽけな夢と気負いとをだいじにかかえこんで
ねしずまりかえった家々の窓に
困惑だの不安だの哀願だの明日への祈りだのの影がひそむ

あかずの踏切りに  そのゆくてをさえぎられ
幻影の旅人は立ち止まる
まちこがれていた「あした」は木枯らしのなかにかすんできえた
おわりのない旅にむなしさははてしなく――

ほろびゆく都会に有終の美をみいだせば
なりひびく流行歌は挽歌のひびきをかもしだす
もはやただおもいきりだけが必要だ
見るまえに跳べ  あやまって奈落の底におちるとも

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